成年後見等が開始した後の、後見人の職務
成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」があり、認知症になった後に利用できるのは法定後見になります。例えば認知症の人が相続人になった場合、判断能力の低下を理由に遺産分割協議が無効となることも考えられます。
このような場合でも、法定後見を利用し成年後見人等がいれば、代理人として協議を行うことで、遺産分割協議の成立も可能となります。
他のブログでは、後見開始等の申立の準備や必要書類について、また申立後に行われる審理・審判についてお伝えしましたが、今回は審判が終わり、後見等が開始した後の、後見人の職務についてお伝えします。
後見人等が行うこと
後見人等は預貯金の引き出しや不動産の名義変更など様々な手続きを、本人が亡くなる、あるいは本人の判断能力が回復するまで行っていきます。本人が相続人となった場合は、本人に代わり遺産分割協議を行いますが、原則本人の法定相続分を確保する必要があります。
また、本人の財産を後見人等や親族の名義で管理する、成年後見人等や親族に贈与・貸与するなど、本人の不利益となる管理・処分などは原則行えません。
後見人等が本人の財産を不正に処分した場合、解任だけでなく、民事責任(損害賠償請求等)や刑事責任(横領等)を問われることもあります。そのため後見人等は、「他人の財産管理をしている」という責任感と考えが必要になります。これは親族が後見人等になった場合も同様です。
なお、親族が成年後見人となった場合や、保佐人・補助人にとなり財産管理に関する代理権がある場合には、財産管理の方法などの説明を受けるために「職務説明会」に参加します。
後見等開始後の書類提出
後見人等に選任された後は、本人の財産内容と収支の状況を調査し、「初回報告」として下記の書類を提出する必要があります。提出期限は審判の日から2か月以内です。
1.財産目録
初回報告時点の本人の財産内容をまとめた目録を提出します。財産目録は初回報告が終わった後も、定期的に行う「定期報告」の時にも提出が必要です。なお定期報告では、前回の目録と財産の内容や金額が変わっているかを報告します。
2.年間収支予定表
初回報告時点の本人の収支を確認し、年間収支予定表を作成します。
公的年金、家賃収入、親族からの援助など、収入の項目や金額を記載します。また、生活費、住宅費、施設等の入居費、税金、社会保険料など、支出の項目と金額を把握し、見込額をまとめます。定期的支出のほか、施設入居時の一時金や手術費用などの一時的支出が決まっている場合にはあわせて記載します。入出金を行う口座情報の記載も必要です。
なお、支出が収入を上回る場合は、親族からの援助額の増額、定期預金解約、資産売却などの対処方法の記載も必要です。
3.その他資料
※コピーを提出
・残高が記載された通帳(普通預金、定期預金など)
・取引残高が確認できる有価証券報告書(株式・投資信託・国債など)
・保険証券
・年金額通知書
・施設費などの領収書
・納税通知書
・負債などの資料・不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)
なお、これらの書類を期限内に提出しない場合は、弁護士や司法書士等が調査人として選任され、後見等事務や財産状況の調査が行われ、さらに、後見人等の追加選任や監督人の選任が行われるケースがあります。後見人等を解任されることもありますので、期限内に書類を提出する必要があります。
裁判所への連絡が必要な場合も
後見等の開始後は、財産管理や後見事務などを後見人等自身の判断で行っていきます。裁判所から指示などを受けることはありませんが、後見事務等を行う中で判断に迷った場合には、裁判所に連絡をして判断を仰ぐこともできます。
また次のような場合は、裁判所に連絡する必要があります。
・本人または後見人等の転居時
・本人または後見人等の死亡時
・初回報告または定期報告の提出遅延時
・不動産など、大きな財産処分時
・遺産分割、相続放棄時
・不動産売却代金、遺産、保険金など多額の金銭の受領時
・1件50万円以上の商品やサービス購入時
・債務返済時
・立替金清算時
このように後見等が開始された後は、後見人等が本人の財産や収支の状況などを定期的に報告し、管理していきます。