土砂災害特別警戒区域内にある宅地の相続税評価
台風や豪雨によって土石流や地滑り等の「土砂災害」の被害が大きくなる恐れのある区域は、「土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)」によって、「土砂災害(特別)警戒区域」に指定されています。
土砂災害の恐れがある区域を明示することで、危険の周知や警戒避難態勢の整備を行うとともに、その区域の建築物の規制や、既存住宅の移転勧告等の推進を目的としています。
都道府県ごとに調査が行われ、土砂災害の恐れがある区域を「土砂災害警戒区域」に指定する。さらにその警戒区域内で、著しい土砂災害が発生する恐れのある区域は「土砂災害特別警戒区域」に指定されます。
土砂災害特別警戒区域に指定された場合は「特定の開発行為に対する許可制」「建築物の構造規制」「建築物の移転等の勧告」等、土地や建物に関する制限が設けられます。そのため、区域内にある宅地の相続税評価の方法が別途定められています。
特別警戒区域内の宅地の評価方法
この評価方法は、平成31年1月1日以後に相続・遺贈又は贈与によって取得した宅地の評価に適用されています。課税時期に「土砂災害特別警戒区域」内にある宅地に適用され、課税時期前に指定解除された宅地については適用されません。なお「土砂災害警戒区域」内にある宅地には、この評価方法は適用できません。
また、宅地の一部が特別警戒区域内となっている宅地は、通常の宅地の評価を行った後に、その宅地の総地積に対する特別警戒区域内となる部分の地積の割合に応じて、補正率を掛けて評価を行います。
・特別警戒区域補正率表
特別警戒区域の地積 総地積 | 補正率 |
0.10以上 | 0.90 |
0.40以上 | 0.80 |
0.70以上 | 0.70 |
・土砂災害特別警戒区域内にある宅地の相続税評価額:通常の宅地の評価額×補正率
倍率地域にある宅地は、その宅地の固定資産税評価額に国税庁が定めた倍率を掛けて評価を行います。ただし固定資産税評価額の算定にあたっては、特別警戒区域に指定され土地の利用が制限されることによって、土地の価格に影響を与える場合には、その影響が固定資産税評価額にも反映されています。そのため倍率地域にある特別警戒区域内の宅地は、この評価の適用対象となりません。
また、市街地農地・市街地周辺農地・市街地山林・市街地原野は宅地ではありませんが、「宅地比準方式」により評価を行うため、これらの土地が特別警戒区域内にある場合には、この評価の適用対象となります。さらに、市街化区域内の雑種地又は市街地農地等に類似する雑種地についても適用対象となります。
「がけ地補正率」も併用して評価が行える場合も
また特別警戒区域は地形が傾斜している地域に指定されるため、その宅地にはがけ地が含まれている可能性が高くなります。「がけ地補正率」を適用できる場合には、特別警戒区域補正率にがけ地補正率を掛けた数値を補正率とすることができ、その場合の補正率の下限は0.53となっています。
・がけ地補正率表
がけ地の方位→ がけ地地積 総地積 ↓ | 南 | 東 | 西 | 北 |
0.10以上 | 0.96 | 0.95 | 0.94 | 0.93 |
0.20以上 | 0.92 | 0.91 | 0.90 | 0.88 |
0.30以上 | 0.88 | 0.87 | 0.86 | 0.83 |
0.40以上 | 0.85 | 0.84 | 0.82 | 0.78 |
0.50以上 | 0.82 | 0.81 | 0.78 | 0.73 |
0.60以上 | 0.79 | 0.77 | 0.74 | 0.68 |
0.70以上 | 0.76 | 0.74 | 0.70 | 0.63 |
0.80以上 | 0.73 | 0.70 | 0.66 | 0.58 |
0.90以上 | 0.70 | 0.65 | 0.60 | 0.53 |
土砂災害防止法によって特別警戒区域に指定されると、その区域内の宅地には利用制限がかかってしまいますが、相続財産としての評価額は減額できるため、このような宅地の評価を行う場合には、現場調査、現況(簡易)測量を行い、宅地全体の地積に占める特別警戒区域とがけ地の地積を把握する必要があります。