遺言の「方式」には2種類ある

遺言一般危急時遺言,危急時の遺言,特別の方式,遺言,難船危急時遺言

一般的に「遺言」と呼ばれるものには「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあります。これらは「普通の方式」の遺言と呼ばれ、民法にもその旨が記載されています。

民法

(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

このように、3つの証書によって遺言をすることとされていますが、上記のように「特別の方式」によって遺言をすることも可能となっています。ではどのような時に、このような遺言をするのでしょうか?

特別の方式による遺言1「死亡の危急に迫った者の遺言」

民法

(死亡の危急に迫った者の遺言)
第九百七十六条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
(後略)

この遺言は一般危急時遺言とも呼ばれ、病気等で死期が迫っている場合に作成される遺言です。

・証人3人以上が立ち会う
・遺言者が遺言の趣旨を証人の1人に口授(口頭で伝える)
・口授を受けた証人が、これを筆記して遺言者及び他の証人に読み聞かせる、または閲覧させる
・証人全員がその筆記内容の正確さを承認し、署名押印する

このような手順で作成され、遺言が作成された日から20日以内に証人の1人又は相続人等が、家庭裁判所に請求して確認を得た後に遺言の効力が生じます。

特別の方式による遺言2〜「船舶遭難者の遺言」

民法

(船舶遭難者の遺言)
第九百七十九条 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。

この遺言は難船危急時遺言とも呼ばれ、船舶の遭難等の場合で死亡の危急が迫っている場合に作成される遺言です。

・証人2人以上の立ち会う
・遺言者が口頭で遺言をする
・証人が遺言の内容を筆記して署名押印する

このような手順で作成され、遺言が作成された日から遅延なく、証人の1人又は相続人等が家庭裁判所に請求してその確認を得た後に遺言の効力が生じます。

ただしこの2つの遺言が作成された後に、遺言者が死亡の危機や船舶の遭難等から脱した場合には、普通の方式による遺言の作成も可能となります。

また遺言者がこの時から6か月間生存した場合には、特別の方式によって作成された遺言の効力は無効となります。

民法

(特別の方式による遺言の効力)
第九百八十三条 第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない。

あまりこのような遺言を作成することは無いと思いますが、生命の危機に直面した場合には、特別の方式による遺言を残すことができます。ちなみに今回お伝えした2つの遺言は「危急時の遺言」と呼ばれています。

今回お伝えした特別の方式による遺言には、他に「伝染病隔離者の遺言」「在船者の遺言」がありますが、この2つについては別の機会にあらためてお伝えします。