遺産分割は禁止されることがある

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相続発生後は、遺言書の内容に沿って財産を相続したり、相続人間で遺産分割協議を行って相続財産を決めたりしますが、遺産を分割することが禁止される場合があります。これを「遺産分割の禁止」と呼びます。

民法では、遺産分割方法の禁止について、いくつか定められてます。まずは遺言で遺産分割を禁止する方法です。

民法

(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

上記の「、又は‥‥」以降が、遺産分割の禁止についての記載です。遺言によって、5年間は遺産分割を禁止することができます。

また、「遺産分割をしない」ということを、相続人間の遺産分割協議等で決めることも可能です。この場合も遺産分割の禁止の期間は5年間ですが、期間をさらに5年間延長することもできます。

民法

(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。

さらに、遺産分割で争いやもめ事などがあり、協議ができない場合等「特別な事由」があるときは、家庭裁判所の審判によって遺産分割が禁止されることがあります。

民法

(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

どんな時に遺産分割が禁止されるのか

遺産分割の話し合いがまとまらず、裁判所によって遺産分割が禁止されるケース以外では、どのような場合に禁止されることが考えられるでしょうか。

例えば遺言によって遺産分割が禁止されるケースは、代襲相続人である被相続人の孫が未成年で、孫が成人するまでは遺産分割を保留させる、というケースがあります。

未成年の遺産分割協議には代理人を選任する必要がありますが、孫が成人してから自分の判断で遺産分割協議をして欲しいという場合です。

相続人間で遺産分割を禁止するケースは、先妻・後妻それぞれの子の他に非嫡出子がいる場合、さらに後に新たな非嫡出子の存在が明らかになった等、相続関係が複雑になるケースです。

相続人の確定までに相当な時間がかかることが考えられる場合には、遺産分割を禁止しておいて、相続争いを未然に防ぐことも必要になるかもしれません。

遺産分割を禁止するメリット・デメリット

遺言によって遺産分割を禁止するケースでは、遺言者の考えが反映されるという利点があります。また、相続人が確定するまでは遺産分割を禁止しておけば、後から新たな相続人が明らかになった場合に揉めるリスクを回避することができます。

一方で相続財産が共有状態のままになりますので、相続人は個々の財産を取得することができず、財産が宙に浮いた状態が場合によっては長期間続くことがデメリットと言えます。

また相続税では、相続開始から10か月以内に申告を行わないと様々な特例等の恩恵を受けられなくなります。ただし「やむを得ない事情」がある場合には、申告期限後3年を経過する日後に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出することができます。

この申請をしておけば、遺産分割が調った後に「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」等の適用を受けることができます。

申請書にはやむを得ない理由の記載の他、相続又は遺贈に関して「訴えの提起がなされていること」「和解、調停又は審判の申立てがされていること」「遺産分割の禁止、相続の承認若しくは放棄の期間が伸長されていること」を証明する書類、またはその他の事情の明細を記載した書類提出し、承認される必要があります。

遺言によって遺産分割が禁止される、また相続人間で禁止に同意をするというケースはあまりありませんが、今回お伝えしたように、遺産分割は禁止をすることもできます。