自筆証書遺言が作成しやすくなった?
2018年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し、2019年1月13日に施行されています。
民法のうち相続法に関する改正が行われ、その中で自筆証書遺言についての改正が行われたのですが、今回は、あらためてこの改正内容をお伝えます。
自筆証書遺言は手書きで作成
自筆証書遺言は遺言をする人(遺言者)が手書きで作成する必要があります。また、記載内容に不備などがあった場合には法的にその効力が無効になったり、相続人間での揉め事のもとになってしまうことも考えられます。
例えば、日付を「令和5年7月吉日」と書いた場合には無効となります。
また、全財産について相続の方法を書かずに、一部の財産だけを特定の相続人に相続させるような内容の場合、内容によっては「特別受益」に該当し、財産の持ち戻しをしてあらためて相続人間で、遺産分割協議を行うことになってしまうケースも考えられます。相続財産の種類が多い場合には「財産目録」の作成に手間や時間がかかってしまいます。
さらに、自分に不利な内容が書かれている遺言書があることを知った相続人がいた場合、遺言書を破棄したり内容を改ざんしたりする可能性もあります。
遺言書の存在を生前に誰にも伝えていない場合には、死後に遺言書を見つけてもらえないケースも考えられます。遺言書が見つかった場合にも家庭裁判所による「検認手続き」が必要となり、手続きが終了するまでは開封ができず、相続人は内容を確認することができません。
自筆証書遺言は費用がかからないなどのメリットはありますが、このような手間やデメリットもあり作成しづらかったという背景もありました。
一部手書きが不要、検認手続きも不要に
2019年の改正では、自筆証書遺言の作成にかかる手間などが軽減され、作成しやすくなりました。
・財産目録がパソコン等で作成可能
施行日以降に作成された自筆証書遺言に添付する財産目録は、自筆ではなくパソコン等で作成されたものでも認められるようになりました。また、預金通帳や不動産の登記簿謄本等のコピーを財産目録として添付することも可能となりました。
自筆でない財産目録には全ページに自署・押印が必要となりますが、自筆で全ての財産について目録を作成する手間が軽減されました。特に不動産の地番等、細かい事項の記載ミスを無くすこともできます。
・自筆証書遺言の保管制度の新設
従来は作成した自筆証書遺言は自宅や貸金庫等、遺言者自身で保管する必要がありましたが、改正後は「遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所の遺言書保管官」、
遺言者が住んでいる場所か本籍地、あるいは所有している不動産がある場所を管轄している法務局に保管を申請することができるようになりました。
これによって遺言書の破棄・改ざんの恐れが無くなりました。また相続発生後に相続人等が法務局に、遺言書が保管されているかを確認する「遺言書保管事実証明書」交付の申請や、遺言書の閲覧請求をすることで、遺言書の存在の有無や内容を確認することができるようになりました。
さらに、これまで必要だった家庭裁判所による「検認」手続きが不要となりました。
従来からある問題点には注意
このように自筆証書遺言の作成・保管の面で改善されましたが、従来からある問題点も残っています。
法務局に保管を申請する場合には、「法務省令で定める様式」に従って遺言書を作成すれば保管をしてくれますが、記載内容まで確認はしてくれません。
特定の相続人に有利な内容となっていないか、それによって他の相続人の遺留分を侵害していないか、などは遺言者が確認・判断をして作成しなければいけないことは変わりありません。
また「公正証書遺言」は証人2人の立会いの下で作成され、遺言の有効性について争われることはほとんどありませんが、自筆証書遺言の場合、記載内容によっては遺言の有効性が争われるケースも考えられます。
このような点は従来と同じく問題となる場合がありますので、自筆証書遺言を作成する場合にも専門家に相談をして、記載内容を決めていったほうが安心だといえます。